重箱の隅をつつくような細かいことですが・・・

本を読んでいると、ごく稀に、最初の数ページを読んだだけで憂鬱になってくる場合がある。久しぶりにそんな本に出会ったので、   そして何故か友人に「Blogに書け」と言われたこともあって   備忘録代わりにメモをしておこう。

資料からみる中国法史
   
  書  名: 資料からみる中国法史
  版  次: 初版第1刷
  著  者: 石岡浩・川村康・七野敏光・中村正人
  出版者: 法律文化社
  出版地: 京都府
  出版年: 2012.07.15
  形  態: ⅷ,229p,19cm
  I S B N: 978-4-589-03442-7
  価  格: ¥2500+税


  t1.シリョウ カラ ミル チュウゴク ホウシ
  a1.イシオカ ヒロシ,カワムラ ヤスシ,シチノ トシミツ,
   ナカムラ マサト 
  s1.法制史,中国 分類番号322.22




~目次~
はしがき
第0講 本書は何を課題とするのか
  1中国法史を学ぶ意味
  2中国法史の時代区分
  3本書の構成と内容

第一部 法と刑罰
 第1講 律令法体系はどのように形成されてきたのか:周から隨へ
  1成文法の形成:春秋時代
  2法経六篇と九章律:戦国時代から秦漢へ
  3睡虎池秦墓竹簡:戦国時代末期の秦の法
  4張家山漢墓竹簡「二年律令」:前漢初期の律と令
  5基本法典の形成:三国魏の新律十八篇
  6「律令」基本法典の形成:西晋の泰始律令
  7副次法典の形成:北朝の律令
  8唐律の原型:隋の開皇律
   コラム①秦漢の出土法史料

 第2講 律令法体系はどのように変容していったのか:唐から清へ
  1律令法体系の完成:唐前半
  2再副次法典の時代:唐後半から五代へ
  3編勅から勅令格式へ:北宋から南宋へ
  4征服王朝の法:遼から元へ
  5律例法体系の形成:明から清へ
   コラム②基本法典と副次法典

 第3講 五刑の刑罰体系はどのように形成されてきたのか:周から隨へ
  1周の五刑
  2死刑・労役刑・財産刑:秦の刑罰体系
  3前漢の文帝の刑罰制度改革
  4秦の刑罰体系への回帰:魏・晋の刑罰体系
  5南朝の刑罰体系
  6五刑の形成に向けて:北朝の刑罰体系
  7唐律の五刑の原型:隋の刑罰体系
   コラム③条文の示し方

 第4講 五刑の刑罰体系はどのようにして変容していったのか:唐から清へ
  1唐律の五刑
  2五刑の崩壊
  3変容した五刑と追放刑体系の併存:北宋後半から南宋へ
  4征服王朝の刑罰
  5新たなる五刑:明から清へ
   前近代中国法制年表
   コラム④十悪

第2部 法と裁判
 第5講義 裁判はどのような構造をもったのか
  1裁判案件の区別
  2裁判機関の審級
   コラム⑤官員に対する特別措置

 第6講 裁判はどのように進められたのか
  1訴えの提起
  2取調べと刑の宣告
  3拷問
   コラム⑧八議

 第7講 拷問はなぜ必要とされたのか
  1自白の必要性
  2拷問の実態
  3官箴に見る拷問の戒め
   コラム⑦五服
   男系男性五服親図

 第8講 裁判官はどのように紛争をおさめたのか
  1訴えの提起を妨げるもの
  2建訴への対処
  3裁判官の任務は教化にある
  4教論的調停
   コラム⑧判語と刑案

 第9講 誤判にはどのように対処したのか
  1過ちを改めるに憚ることなかれ
  2納得ゆくまで調べなおす
  3誤判をとがめる体制の行方

 第10講 法と道徳の抵触はどのように解決されたのか
  1忠たらんとすれば孝ならず
  2復讐は孝の最もたるもの
  3復讐は違法行為
  4妥協の論理構成

第3部 刑事法
 第11講 犯罪と刑罰はどのように対応したのか
  1相対的法定刑と絶対的法定刑
  2絶対的法定刑の欠点の緩和
  3前近代中国法と「犯罪の法定」
  4前近代中国法に罪刑法定主義は存在したのか
   コラム⑨不応為条と坐贓条

 第12講 高齢者・年少者や障碍者はどのように扱われたのか
  1法規定上の扱い
  2現代日本との比較
  3実際の対応
  4親が高齢者や障碍者の場合
   コラム⑩五流

 第13講 自首した者はどのように扱われたのか
  1唐律における自首
  2自首してもゆるされない場合
  3前近代中国法が自首に期待していたもの

 第14講 正当防衛は認められたのか
  1正当防衛とはどのようなものか
  2前近代中国における正当防衛
  3現代日本の正当防衛との違い

 第15講 共同犯罪はどのように扱われたのか
  1共同処罰の一般原則
  2例外的な共犯処罰
  3一般人の感覚になじむ前近代中国法の共犯観念

 第16講 殺人はどのように類型化されたのか
  1六殺:典型的な六つの殺人類型
  2謀殺
  3故殺と闘殺
  4戯殺
  5誤殺
  6過失殺
  コラム⑪六贓

第4部 家族法
 第17講 婚姻はどのように行われたのか
  1前近代中国の婚姻
  2婚姻成立の段階
  3制度のひずみで
  コラム⑫宗族と姓

 第18講 離婚と再婚はどのように行われたのか
  1離婚
  2寡婦の再婚
   コラム⑬妻と妾

 第19講 家産はどのように受け継がれたのか
  1家産の管理処分
  2家産の分割と戸籍の分割
  3家産均分の原則
  4家産分割の現実
   コラム⑭女子分法の謎

やっと目次が書き終わった。
これだけ長いと目次を見ただけでどのようなことが書かれているのか一発でわかってとても便利なのだが、タイピングするのは大変だw

目次を見ての通り、王朝時代の中国の法律(律・令・格・式)について書かれた本だ。
「アルファベット表記があるわけでもないのに横書きにしたのは何故か?」とか、「法令の文章が現代文のみで原文がないのでは確認が取れないではないか」とか、「過ちを改めるに憚ることなかれは「改むる」ではないか」とか、「『書経』は「しょきょう」と慣用読みをせずに「しょけい」と読んでいるにもかかわらず、「貞観」は「ていかん(ていがん)」と読まずに「じょうがん」と慣用読みをしているのは何故か?」など疑問に思うことはたくさんあるが、逐一取り上げていてはきりがないので、こういった疑問はひとまず横に置いておこう。

さて、問題の憂鬱が始まった箇所とはどこぞや?
9ページの下から三行目の問題の箇所を抜粋してみよう。


春秋時代の晋(しん)では、文公(ぶんこう,在位・前636-前628)のときに、趙宣子(ちょうせんし,趙盾(ちょうじゅん))が国政改革を行い、刑書を作成しました。この改革について『春秋左氏伝』文公(ぶんこう)六年(前621)条は、「法制を定め、法が罪の軽重に応じるように修訂し、裁判を処理して……、晋の国内に配布して常法とした」と記しています。



問題その1
「盾」という字は、「矛盾(むじゅん)」という言葉があるように、「じゅん」と読んでしまいそうだが、実はもう一つ「とん」という読み方がある。矛と盾の時のような場合は「じゅん」と読むが、人名の場合は「とん」と読むのだ。よって、趙盾は「ちょうとん」と読まねばならない。
ゑ?「現代中国の作家に茅盾なる者がいるが、読み方は「ぼうじゅん」ではないか!」ですって?茅盾の本名は沈德鴻といい、茅盾はペンネームなのだ。これはまたちょっと特殊な例になるのだが、中文研究者の中には「ぼうとん」と読んでいる人もちゃんといるのだ。尚、現代中国語読みでは「maodun」である。

問題その2
晋の文公(在位・前636-前628)の時代の趙さんは「趙衰(ちょうし)」であり、趙盾(宣子は諡号)は晋の霊公(在位・前620年-前607)の時代の人である。
文公は亡命生活こそ長かったが、春秋五覇の一人に数えられる人物であり、在位は短いものの、無事に天寿を全うしている。一方で晋の霊公は、大臣であった趙盾と対立して殺されている。

主君霊公と大臣趙盾の対立が激化して、遂に趙盾の一族の趙穿という者が霊公を殺害するという事件が起こった時、晋の歴史官の董孤が「趙盾が霊公を弑殺した」と記録した。趙盾は当初、「自分が殺したわけではない」と反論したが、董孤の「主君を殺した者を処罰する役割の大臣であるあなた(趙盾)が処罰せずにいるのは、あなたが殺したようなものだ」という主張し、趙盾がこれを聞き入れたという。これが「権勢を恐れずに真実の歴史を書き記すこと」を意味する「董孤の筆」という故事の出典である。

晋の文公を正しいとすればよいのか?はたまた趙盾を正しいとすればよいのか?
『春秋左氏伝』の文公六年の条を見てみると、


六年、春、晉蒐于夷、舍二軍。使狐射姑將中軍、趙盾佐之。陽處父至自溫、改蒐于董、易中軍。陽子、成季之屬也、故黨於趙氏、且謂趙盾能、曰:「使能,國之利也。」是以上之。宣子於是乎始為國政、制事典、正法罪、辟獄刑、董逋逃、由質要、治舊洿、本秩禮、續常職、出滯淹。既成、以授太傅陽子與大師賈佗、使行諸晉國、以為常法。



とある。ここには「(趙)宣子」と書かれている。よって、趙衰説は却下となる。
『春秋』は元来魯の歴史書であるのだから、この場合の「文公」とは「晋の文公」ではなく、「魯の文公」を指すのであろう。よって、「魯の文公6年(前621)、晋では霊公の大臣である趙盾(ちょうとん)が」が正しいのではあるまいか?
執筆者はこの文公を「晋の文公」と勘違いをしたのだろうか?

Myrthaは法制史の専門家ではないので、専門的なことはトンとわからないが、コンパクトな入門書としてならば、異なる世界を覗けたという面白さはあった。随所に日本の法律との相違が書かれているのも興味深い。だが、こういった細かいところの記載が誤っていては、自分の知らない他の箇所にも間違いがあるのではないかと考えざるを得ず、したがって、重い気を引きずりつつ読まざるを得なかった。

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